宇宙のポータルサイト UNIVERSE

最新宇宙ニュース

◆ ホーム >> 最新宇宙ニュース:2003年 >> 火星大接近 −これからが見頃−

火星が話題だ。なんといっても今年の火星は、条件に恵まれた大接近である。もともと大接近のたびに世間は騒ぐが、今回は「約6万年ぶり」という、マスコミにとっては格好のお題目もついているから、なおさらである。

火星は地球のすぐ外側を回る惑星だ。約2年2ヶ月ごとに地球に近づくので、接近そのものはそれほど珍しくはない。だが、地球がほぼ円軌道なのに対し、火星はその軌道がずいぶんと歪んでいる。そのため、近づくタイミングが夏になると、接近距離がずいぶんと小さくなって、大接近となる。そして非常に明るくなって、一般の人の目を引く。逆に冬に近づく場合には、かなり地球から遠いので、それほど明るくはない小接近となる。大接近時の接近距離が5600万kmを割り込むほどなのに、小接近での接近距離は1億kmを越えている。

今年の最接近は8月27日で、その距離は5576万km。大接近は15年から17年ごとに起きるが、この接近距離は20世紀で最高といわれる大接近:1924年8月22日(5578万km)の再現といえる。その意味では、79年ぶりの好条件といえるが、数値的に細かいことをいえば、5576万kmを上回る接近は、実は紀元前57538年までさかのぼらない。約6万年ぶりというお題目は、この計算結果に由来するものだ。次回、これより接近するのは2287年なので、いずれにしろ希有の大接近といえる。

しかしながら、大接近が希有だからといって、その日を逃すと条件がまったく変わってしまう、ということはない。約6万年ぶり大接近といっても、火星のみかけの大きさは、満月の72分の1。これは200m先においた十円玉の大きさに等しい。だから、天体望遠鏡を使わなければ、火星の大きさはわからないし、もともとそれだけ小さいのだから、多少日付がずれても見た目はほとんど変化がない。10月になっても、最大の時の大きさに比較して、2割ほど小さくなるにすぎない。

さらに別の条件でいえば、大接近後の9月10月の方が有利である。火星の模様などを望遠鏡で観察するには、大気の影響が少なくなる条件、つまり火星が空高くあがる時刻が最適である。ところが、大接近の頃は、火星が南中(真南にきて、最も高くあがること)するのは深夜、つまり日付の変わる頃。これはなかなかつらい。大接近から一ヶ月もすぎると、南中は午後10時となり、実に見やすい時間帯になる。10月ならさらに午後8時には、火星が南の空にあがっているので、子どもさんにとっても有利だ。

というわけで、大接近というと、その日だけしかチャンスがないという誤解をしがちだが、火星に限ればそんなことはないということをぜひ念頭に置いてほしい。接近後1〜2ヶ月の長い間、チャンスがあるのだ。

もうひとつ、お願いしたいのは、大接近ということで「過度」に期待をしてほしくないと言うことだ。なにしろ、雑誌やテレビでは、探査機が火星の至近距離から撮影した鮮明な画像があふれている。しかし、大接近とはいっても、地球から見る限りは、先ほども言ったように、せいぜい200m先においた十円玉ほどの大きさにすぎないのである。探査機の映像ほどには、よくは見えない。それでも、表面の模様がなんとか見え、地球の方を向いた南極冠もはっきりと見えるだろう。そして、もっとよく見てみたい、と思うに違いない。先人たちは同じ思いをして、その思いが募って探査機を向かわせ、あの鮮明な映像が人類の目に触れることができるようになったことに思いを巡らせていただければ幸いである。

全国各地の公開型天文台では、9月から10月にわたって火星の観察会を開催している。マーズ・ウィーク(現在終了)というキャンペーンも行われている。この機会に、ぜひ火星を楽しんで、そして想像の翼を羽ばたかせていただきたい。(2003/8/24)

国立天文台 渡部潤一

Copyright