宇宙のポータルサイト UNIVERSE

最新宇宙ニュース

◆ ホーム >> 最新宇宙ニュース:2003年 >> JAXA誕生再論

2003年10月1日、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団の三つの組織が統合して、新たに「宇宙航空研究開発機構」(JAXA:ジャクサ)が発足した。東京大学の糸川英夫博士が東京大学生産技術研究所の若手研究者を集めてロケット研究会AVSAを結成したのが1953年のことだから、それからちょうど半世紀を経て日本の宇宙活動が新しいスタート台についたことになる。

昨年、遠山文部科学大臣から三機関の統合が宣言されたことは、私たちの多くにとって「青天の霹靂」であった。「こんなに文化の異なる組織をどうやって単一の機関にまとめるのだろう?」しかし至上命令として降ろされたこのトップダウンの指示を「運命」と甘受してからは、三機関の人々の死に物狂いの統合への努力が開始された。それは決して平坦な道程ではなかった。しかしどうやら準備は整い、21世紀の日本の宇宙開発を担う歴史的事業が、その第一歩を踏み出した。

今回の統合は、言うまでもなく行政改革の一環として行われたものである。私たちがこの統合を「運命」と感じたということは、それを「時代の要請」と受け止めたということである。人間は誰でも特定の時代の中で生きる。私たちが現在生きている日本は、第二次世界大戦後60年を経て、大きな転換期を迎えているのである。

その転換期は、どうやら他人に任せて乗り切る性格のものではないらしい。日本という国の行く手が、世界的な規模で進行している巨大な歴史の岐路と深いつながりを持っていることは明白であり、この時期をきちんと乗り越えるために、日本の政治の、経済の、産業の、教育の戦略が鮮明になっているとは考えにくい。宇宙の分野でJAXAがやるべき任務は、過去の経緯にとらわれないで、こうした日本の歴史的課題に応えうる大胆な変革の道を指し示すことである。新しいパラダイムを持つ国を築く事業の必須の環として、宇宙活動の組織のあり方、仕事のやり方、戦略づくりとその実行計画を明らかにすることが重要である。

そのための技術的な基礎がどれだけ日本に育っているのか、私たちは冷静な目で分析総合する必要がある。世界の舞台で十分に通用するものもあれば、これから大いに獲得しなければならないものもある。さまざまな活動分野のそれぞれにおいて、得手不得手がない交ぜになっており、総合力としては日本は第二列についているというべきであろう。自らの位置についての適確な把握が、総体としても個別としても第一になされるべきである。

これまでの世界の宇宙開発の歴史は、1980年代までは米ソの競争を軸に展開されてきた。人工衛星、軌道への人間の派遣、地球脱出、……これらはすべて米ソが先鞭をつけ、他国はそれを追う形で宇宙活動の道が舗装されてきたと言える。そして20世紀の人類の宇宙活動の頂点というべき有人月面着陸は、米ソ以外の国はとても追随できない規模の闘いとして取り組まれ、その後アメリカはスペースシャトルによる有人の宇宙往還機に、一方旧ソ連は人間の宇宙長期滞在に重点を置いた活動を展開した。

スペースシャトルに重心を移し過ぎたアメリカがチャレンジャー事故で一時撤退を余儀なくされた時、宇宙の商業化の波を適確に見極めたヨーロッパの人々が、ローテクのアリアン・ロケットを擁して一挙に世界の衛星打上げ市場を手に入れたことは、今もって記憶に生々しい。明らかに、この頃、米ソに追随しない形の宇宙開発のルートが開拓されたのである。日本の宇宙技術は決して世界と比べて大幅に見劣りするものではない。自らの長所と短所を他国との比較でしっかりと把握することができ、それを生かした独自の戦略を練り上げれば、世界に雄飛することは十分に可能である。米露欧と同じ高速道路でスピードや運転テクニックを争う必要はないのではないか。

あのチャレンジャー事故の頃、著名な物理学者フリーマン・ダイソン博士が、アメリカ議会においてNASAの大艦巨砲主義を批判し、日本の「小さくても機動的に着実に衛星を打ち上げて成果をあげる」方式を"Small but quick is beautiful."と表現して絶賛し「日本に学べ」と演説したことは有名である。

天気予報、テレビ中継、国際電話、携帯電話、カーナビ、地震予知など、宇宙はすでに広く深く私たちのお茶の間と日常生活に浸透している。日本の宇宙技術を人々の「暮らしといのち」(Life)のために役立てる方途を精一杯探る努力が開始されなければならない。

長期的に見ると、宇宙は、地球環境の未来を守るための最も枢要不可欠な手段の一つである。もしも衛星の活躍によってオゾン層の破壊に気づかなかったら、人類は現在よりもさらに厳しい危機に直面していたことは疑いない。これは宇宙に飛び出て地球を外から見ることの際立った意義を示すほんの一例である。この分野で世界に誇る技術を持つ日本の役割は大きい。

自らの技術を足場にして、宇宙や太陽系の観測・探査を続けて世界に知的な貢献をできる国は少ない。ブラックホールや超新星などを研究するX線天文学を始めとして、地球を包むプラズマの研究、太陽の研究、電波天文学など、世界のリーダーになっている日本の宇宙科学に、赤外線天文学や月・惑星の探査を隊列に加えて、文字通り世界の頭脳になっていきたいものである。

以上の課題をやり抜くために、高い信頼性を誇るロケットを中心とする極限の宇宙輸送技術を追求していかなければならない。すでにJAXAの山之内秀一郎理事長は、これまで築いてきたH-2AやM-Vの技術を維持発展させ、さらに信頼性の高さとコストの安さを具備した世界最高峰のロケットを作り上げる決意を固めている。

この点に関しては、日本の有人宇宙輸送について触れておかなければなるまい。日本には、日本がいつか独自の力で人間を宇宙へ運べるようになるだろうとの期待を抱いている人が多くいる。またJAXAの内部にも、そのような技術の開発に一生を捧げたいと考えている若者たちがいっぱい存在している。この度の発足時には、「なぜ人間を宇宙へ運ぶのか」について、JAXA全体を納得させる説得力が、有人輸送のグループには足りなかったと思う。この点は、「人類の宇宙飛行は歴史の必然」とか「中国がやるから日本も負けられない」などの情緒的な議論だけでは、大きな予算を使う事業としては不十分であることは明らかである。観念論ではない、他国へのキャッチアップのためだけでない、現実の日本の置かれた厳しい状況に合う論理の組み立てと、基盤となる技術の蓄積を数年の間に準備して、ぜひとも捲土重来を期したいものである。

コロンビア事故と国際宇宙ステーションの狭間で苦闘するアメリカの有人宇宙活動は、その活路をどこに求めるのか。人類の有人宇宙活動そのものが歴史的転換点に立っていると感じているのは筆者だけではないはずである。その意味においても、これから21世紀の有人宇宙活動の展望を探っていく日本の有人宇宙派の密かな努力に、乞御期待。

そして最後に、宇宙という魅力に溢れたテーマを通じて、子どもたちに大きな夢と希望、さらに科学と未来の社会建設への大きな動機づけを育みたいものである。宇宙教育が日本の救世主になる日を志して、教育コミュニティや産業界の人々との連携プレーを大いにひろげていきたい。

大好きな空や宇宙の仕事を通じて、同じ時代に生きる多くの人々の幸せに奉仕することが私たちの願いである。閉塞感の漂う日本の国が、JAXAの精力的な活動によって活力を帯びることを心から期待している。(2003/10/14)

宇宙科学研究所 的川泰宣

Copyright