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◆ ホーム >> 最新宇宙ニュース:2003年 >> 1%の水が小惑星の進化の謎を解く〜ベスタの表面に、水を含んだ鉱物を発見〜

宇宙には、水が思ったより豊富にあります。地球だけではなく、火星や木星の衛星などにも水(氷)があります。一方、月や水星などには水はわずかしかありません(「水」星なのに、なんて言わないでくださいね)。
天体の表面に水などの揮発性物質があるかどうかは、その天体の進化の過程を知る上で、重要な資料となります。あまり揮発性物質がないということは、その天体が高い温度を経験して、そういった物質が飛ばされてしまったことを意味しています。逆に、揮発性物質があれば、あまり高い温度を経験していない、つまり、昔の環境をよく残している天体だということがいえます。

小惑星はどうでしょうか。一般に、小さい天体は、内部に蓄えられているエネルギーが少ないので、あまり高温になることはありません。そのため、小惑星には、太陽系ができた頃の物質があると思われています。「はやぶさ」(MUSES-C)をはじめ、探査機が小惑星を目指すのも、そういった物質を調べたいからなのです。
ところが、小惑星も大きいものなどでは、地球のように、コアやマントルのような層になった内部を持つものがあります。こういった天体は「地球型小惑星」といわれており、一度内部が溶けるほど熱い環境を体験している天体だと考えられています。
当然、一度溶けてしまったら、水のような物質は「飛んで」しまっていると思われていました。


小惑星ベスタの観測写真。JAXA相模原キャンパスで、10cm望遠鏡により観測(写真:JAXA)。

ところが、意外な発見がありました。
今年3月、JAXA・宇宙科学研究本部(*1)の長谷川直(すなお)研究員などの国際共同研究グループは、ハワイ島にある赤外線望遠鏡を使って、小惑星ベスタの表面を観測しました。ベスタは、小惑星としては3番目に大きな天体ですが、直径は500kmほどで、月と比べても7分の1の大きさしかありません。
この赤外線での観測を詳しく調べた結果、このベスタの表面に、水を含む鉱物(含水鉱物)があることが確かめられたのです。
赤外線でなぜ、水があることがわかるのでしょうか。これを示している図が、図2になります。物質は、それぞれに決まった波長の光を吸収する性質を持っています。そこで、ある物体から放射されたり、反射したりした光を調べると、その物質(光を出していたり、反射したりする物質)がどのようなものかがわかるというわけです。これを、スペクトル分光学といいます。


観測した結果。縦軸は反射率、横軸は観測した波長。2.8〜3ミクロン(マイクロメートル)付近のグラフの線が下がっていることに注意。(図:JAXA)

実際の観測結果をみてみましょう。横軸は波長ですが、この波長は赤外線の領域になります。縦軸は反射率になるのですが、2.8〜3マイクロメートル(ミクロン)付近のグラフの線が少し下がっているのがおわかりかと思います。この「少し」はたった1%です。しかし、2.8マイクロメートル付近でグラフの線が下がっているということは、実は水によって赤外線が吸収されていることを意味しているのです。

たかが1%、されど1%です。グラフの吸収率から計算すると、重さにするとこの水の量はわずか0.1%くらいにしかなりません。それほどわずかではあるのですが、これまで考えられなかった水(含水鉱物)を、ベスタの表面で、世界ではじめて発見したことになります。

この水はどこからやってきたのでしょうか? 原因をいろいろと調べていきますと、いちばん有力な仮説として、ベスタに水を含む隕石か小惑星がぶつかった、という可能性が浮かび上がってきます。
先ほど、昔からの物質には揮発性物質を含むものが多いというお話をしました。実は、こういった揮発性物質を含む隕石があります。「炭素質コンドライト隕石」と呼ばれる種類の隕石です。
この種類の隕石は、含水鉱物や有機物などを含んでいます。隕石としては割と珍しいものですが、最近では1999年、神戸に落下した「神戸隕石」がこの種類の隕石と判明して、話題になりました。
このような、炭素質コンドライト隕石に似た物質からできた小惑星がベスタにぶつかったときに、水が供給されたと考えられています。そうしますと、そのときに水だけではなく、有機物なども供給されたかも知れません。たとえ一度は揮発性成分がなくなってしまっても、こうやって新たに揮発性成分が供給されるということがあり得るのだということを、今回の研究は示したことになります。
水や有機物となると、生命の起源という話にも興味が湧きます。もちろん、今回の発見が、一足飛びに小惑星に生命が存在する可能性を示すものではありません。しかし、例えば原始地球に同じようなことが起こって、水や有機物が供給されたという可能性は十分にあります。
今後もっと研究が進み、ベスタ上での含水鉱物の分布やその起源がさらに明らかになれば、地球、さらには太陽系の水の起源を解明することにもつながっていくかも知れません。


AXAの小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)
(イラスト: 池下章裕/MEF/JAXA)

また、これらの研究は、JAXAが進めている将来の探査計画にも期待を持たせてくれます。例えば、今まさに小惑星「イトカワ」に向けて飛行を続けている「はやぶさ」(MUSES-C)は、小惑星のサンプルを世界で初めて持ち帰ってきます。「イトカワ」は、どちらかというと昔ながらの環境を残した小惑星であるといわれていますが、この表面の物質と今回の結果を比べることによって、小惑星がどのように進化するものなのか、研究が進むことが期待されます。


赤外線天文衛星ASTRO-F(イラスト: JAXA)

一方、こうなると他の小惑星の表面にも含水鉱物があるのかどうか、気になるところです。しかし、こういった研究をより詳しく行うためには、地球からの観測だと難しいのです。なぜなら、地球の大気は水分を含んでいますから、肝心な赤外線の部分を吸収してしまうからです。
そのためには宇宙に出なければなりません。宇宙から赤外線を観測する望遠鏡で小惑星を調べれば、もっと多くのことが分かるはずです。JAXAが今後打ち上げる予定のASTRO-Fという赤外線天文衛星がありますが、こういった衛星による観測が、小惑星、さらには太陽系の謎を解いていくことが期待されます。

たかが1%、されど1%。研究者の地道な観測と解析が、太陽系の謎を少しずつですが暴いています。(2003/11/4)

(*1) 当時は文部科学省宇宙科学研究所。

宇宙航空研究開発機構 寺薗淳也

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