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◆ ホーム >> 最新宇宙ニュース:2003年 >> 観測ロケット実験 大気光の縞々模様はどうしてできるのでしょう?

地球の大気は高度が高くなるにつれだんだん薄くなっていきます。高度30km(すなわちエヴェレスト山の約3倍)では地上の気圧の約百分の一になります。

これらの大気の中にはいくつかの高度で太陽光をもともとのエネルギ源として光を出しているものが在ります。これを大気光と呼びます。高度85-100kmでも薄い大気(地上の約百万分の一の大気の薄さになります。)が発光していることが知られています。これらはきわめて弱い光のため肉眼では見えませんが、特定の波長の光だけを通すフィルターを使った高感度カメラによる撮影で観測を行う事ができます。ところが、最近急激に発達した光学技術を使った観測によって、この発光層が縞々構造を持つことがわかってきました。写真は2000年1月に鹿児島県内之浦町に設置したカメラで撮影された縞々の発光層(総務省通信総合研究所)で、左右にのびる光の帯が幾筋も見えています。

この縞々状の構造がどのようにしてできるのか、は大きな謎です。最近の研究により、希薄な大気中を伝わる波がこの構造と関係がありそうだということがわかってきました。しかし、波がどこからやってくるのか、その波がどのように大気が発光している高度まで達しているのか、波がどのようにして縞状の発光を作り出すのか、まだ謎のままです。

この現象を観測ロケットと地上に設置したカメラによる同時観測を行うことによって解明するべく、観測ロケット実験が提案されました。観測ロケットには大気光の強さ、酸素原子や電子の密度を観測するための測定器を搭載し、大気の波が伝わる様子を調べるとともに、薄いアルミ箔をロケットから約1万枚散布して、これを地上のレーダで追跡する事により大気の風の情報を得ます。地上では観測ロケット打ち上げの前後、数時間にわたって、酸素原子や酸素分子の発光分布をカメラで撮影します。特に通信総合研究所と名古屋大学太陽地球環境研究所は三地点にカメラを設置して、三角測量の原理で大気が光っている高さを測定するとともに、波がどのような性質を持っているのか研究します。すなわち短時間ですが鉛直方向の観測が得意なロケットと、長時間にわたって水平方向の観測が得意な地上カメラの組み合わせで、大気光を立体的に観測します。薄いアルミ箔による風観測法とは別な原理で、地上に設置された京都大学,通信総合研究所のレーダにより風の観測も行います。これと同じような実験は2000年に行われましたが、今回の観測によって縞々模様の大気光発生の謎に決着がつけられるのではと期待しています。

この実験を行うためには三つの条件が整う必要が在ります。一つは弱い光を見るため闇夜であること、二つ目は地上からカメラで観測できるためには晴天でなければならない事、三つ目はもちろん現象が現れていなければならないこと、かつこの現象が少なくとも数時間連続して観測されることです。

このため夜21時から日の出までを観測ロケットを発射できるように政府にお願いしました。とくに航空管制に携わる機関のご苦労は大変です。実験班にとっても待機する夜が続くかもしれません。最初のロケット発射日は、2004年1月14日です。

この実験には東京大学、都立大学、立教大学、名古屋大学太陽地球環境研究所、京都大学、富山県立大学、九州有明高専、通信総合研究所などからの多くの研究者が参加しています。一方ではこの観測ロケット実験のために多くの政府機関に協力していただいております。直径31p、長さ7.1mの観測ロケットですが、いかに多くの大学、研究機関、政府機関が関係しているかお分かりでしょう。このロケットで得られたデータを解析して、博士論文、修士論文を書く予定の学生がいます。私は実験期間中、アジア太平洋地域宇宙機関(APRSAF-10)出席のためタイにおり、実験に参加できず、成功を祈るばかりです。

最近、寺田寅彦(1878-1935、理学博士、夏目漱石とも親交があった。)随筆集の中に『自然界の縞々模様』と題した随筆をみつけました。其の最初の部分を紹介してみます。「…ここでかりに『縞模様』と名づけたのは、空間的にある周期性をもって配列された肉眼に可視的な物質的形象をひっくるめた意味でのperiodic patternの義である…。これらの現象の多くのものは現在の物理科学の領域では其の中での極めて辺鄙な片田舎の一隅に押しやられて、ほとんど顧みる人もないような種類のものであるが、それだけにまた、将来どうして重要な研究題目とならないとも限らないという可能性を腹蔵しているものである。今までに顧みられなかったわけは、単に、今までの古典的精密科学の方法を適用するのに都合がよくないため、平たく言えばちょっと歯が立たないために、厄介なものとして敬遠され片隅に捨てられてあったもののように見受けられる。しかし、もしもこれらの問題をかみこなすに適当な『歯』すなわち『方法』が見出された暁には、形勢は一転してこれらの『骨董的」な諸現象が新生命を吹き込まれて学会の中心問題として檜舞台に押し出されないとも限らない。…」

まさに今回の大気光縞々模様はごく最近の技術があるからこそ其の解明にせまれるものであり、ひょっとしたら、新たな展開があるかも知れないと言う氣がしています。寺田寅彦の深い洞察力にあらためて感服した次第です。(2003/12/22)

宇宙航空研究開発機構 小山孝一郎

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