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遅ればせながら、みなさま新年明けましておめでとうございます。

着陸

さる1月4日、NASAの双子のローバーのうちの一つ、「スピリット」は、時速約1万9,000kmで火星の大気圏に突入し、パラシュートや逆噴射エンジンを使って減速した後、エアバッグを膨らませて本体を覆い、バウンドしながら軟着陸しました。

次いで萎ませたエアバッグから姿を現しました。目標地点(火星の赤道に近いグセフ・クレーター)に無事に軟着陸したのです。以下、青い字は私の独り言です。

1970年代の2機のバイキング、1990年代のマーズ・パスファインダーに次いで、NASAとしては4機目の火星軟着陸成功です。火星の表面に到達したことを示す「スピリット」からの初めての信号が届いた瞬間、この火星探査計画を担当しているカリフォルニアのジェット推進研究所(JPL)の管制室は大歓声に包まれました。悔しいがよかったですね。

JPLには、この日、オキーフNASA長官も駆けつけ、軟着陸を見守りました。この日、JPLのパサデナ市の大ホールでは、惑星協会(The Planetary Society)が主催するイベントに2,000人の人がつめかけ、その模様を堪能し、興奮に沸き立ったそうです。こういう市民参加のイベントを用意するサポーターの規模もすごい!

ヨーロッパの「マーズ・エクスプレス」が、同じエアバッグを使う方法で先日うまくいかなかったようなので、JPLのスタッフもさぞ緊張したでしょう。あの着陸の瞬間の喜びの爆発は、裏を返せば非常に心配していたと解釈できるのでしょう。このような人間の生の感動をマスコミに露出させる手法はさすがです。宇宙開発がうんと身近になりますからね。

JPLには、この日、オキーフNASA長官も駆けつけ、軟着陸を見守りました。この日、JPLのパサデナ市の大ホールでは、惑星協会(The Planetary Society)が主催するイベントに2,000人の人がつめかけ、その模様を堪能し、興奮に沸き立ったそうです。こういう市民参加のイベントを用意するサポーターの規模もすごい!

シーケンスで言えば、火星の大気圏に突入してから地表に到達するまでの6分間が最大の難関です。現地には、日本惑星協会の仲間が行っていましたが、パラシュートが開き、逆噴射エンジンが予定通り作動したことを示すデータが来たときに管制室がいったん沸き、その後無事に火星表面に静止したことを証明する信号が届くまでは、大変重苦しい沈黙に包まれたといいます。火星と地球の距離は現在約1億7,000万kmで、電波が届くのに10分近くかかります。最終的に軟着陸成功が確認されたのは、着地推定時間から17分たった4日午後1時52分(日本時間)でした。この緊張を「のぞみ」で味わいたかったなあ。

最初のデータ

着陸の3時間後に、本体や周囲の様子を写した一連の初画像を送ってきました。

まず感じたのは、予想通り非常に平らで岩石が少ないことです。エアバッグのよる着陸を確かなものにするためにも、岩石の少ないことが着陸場所の必要条件の一つに挙げられていたのです。ということは、ローバーも走りやすいということです。

次に、近くの何か窪みのような地形が眼に入りました。瞬間、これは小さな隕石が衝突してできたクレーターだなと思いました。もともとこの着陸地点のグセフ・クレーター(右図)は、火星が幼い頃に大きな隕石がぶつかってできた直径150kmほどの大クレーターです。そのグセフができた後でも小さな隕石がいくつも衝突したでしょう。そういえば、この写真にも、いくつか小さい窪地が見えています。 だとすると、小さなクレーターの真中辺りには、火星の内部の岩石が露出している可能性もあるぞ。ここまで飛躍して、《いやいや、風がえぐったのかもしれないから速断は戒めなければならない》と自戒の念が湧きました。全体の風景から、私の脳裏には釧路湿原が浮かんで消えていきました。


このグセフ・クレーターの南に、豪快な水路のような地形を、アメリカのマーズ・グローバル・サーベイヤー(MGS)が捕らえています(右図)。どうもこれは、かつて大量に存在していた水が、この水路を通ってグセフ・クレーターに流れ込み、そこを大きな湖にしたのだと「妄想」はひろがります。 だとすれば、グセフには、水の痕跡が豊富にあるはずですね。


相次ぐデータ

次いで、着陸地点の周囲の三次元画像を公開しました(下図:赤と青の立体眼鏡で見てください)。

あの白黒に写っていた窪地は、「スピリット」から十数メートルのところにある直径約10mのもので、チームは「スリーピー・ホロウ」(眠そうなくぼみ)と命名し、水と生命の痕跡を探る最初の調査地点の候補に考えていることを明らかにしました。一方、オキーフNASA長官は昨年2月のスペースシャトル事故を悼み、今回の火星の着陸地点を「コロンビア記念基地」とする考えを明らかにしました。

JPLでは、スリーピー・ホロウは隕石の衝突でできた小さなクレーターと見ており、地下の岩石などが露出している可能性があると言っています。まあ白黒から私が思ったのと、同じような感じ方ですね。おそらく、動き出したら、「スピリット」は真っ先にここに向かうでしょう。<

カラー写真も送られてきました(右図)。くっきりした画像ですね。これまで撮られた写真では一番きれいなものではないでしょうか。赤茶色の火星の地表に大小の岩が転がっている様子やくぼ地などが鮮明にとらえられていますね。写真の色は「スピリット」が運んだ日時計の周囲に貼ってある基準の色と慎重に比べられて較正されているので、人間が肉眼で見たときの色とほぼ同じになっています。


ところで、何か黒ずんだ場所がありますね(右図)。これは、NASAの他のデータとつき合わせてみて、「スピリット」の着陸時にエアバッグが擦れてできたと見ているようです。これを「土壌は奇妙なほど粘着力があるようだ」と述べ、「水が蒸発して残された塩分が土壌の粘性を高めている可能性がある」と指摘している人もいます。なるほど、水分が全く関係しないと、エアバッグを引きずっても黒ずんだ跡は残らないでしょうからね。それと、岩石の中には表面が滑らかなものが結構ありますね。風化が相当進んでいるのでしょう。


これまでのハイライトは、1月9日に出された「スピリット」の小型熱放射分光器(Mini-TES)が検出した、大気中や地表の水の存在を示唆する鉱物のデータでしょう。 検出されたのは、地球上では水中でしか生成しない石灰質の鉱物や、結晶中に水分子を含んだ鉱物などです。

(1)前者の「石灰質の鉱物」というのは、たとえば地上では鍾乳洞を作っている石灰岩などで、水が二酸化炭素を溶け込ませるというプロセスが介在しなければできないはずです。そこからかつては海だったという可能性がクローズ・アップされるのですが、 今回は存在量が非常に少ないので、この石灰質は、大気中の水蒸気と地表の鉱物の間で化学反応を起こしてできた可能性もある」と慎重な見方をしている科学者もいるようです。

(2)「水分子を含んだ鉱物」の方は、火山灰層などに多く見られ、私たちが吸湿剤として使っている珪酸質の鉱物か、水分が存在していた環境が乾燥した際にできる硫酸カルシウム鉱物(石膏)と見られており、「火星のずっと昔にカルデラのような地形と湖が存在した」という仮説を裏づけるものかも知れません。

1月10日現在、「スピリット」が送ってきたデータは200メガビットに達しています。これはすでにマーズ・パスファインダーの能力の10倍に相当します。これまでの3機の着陸機では、周囲の岩石の量が20%程度だったのに対し、今回の「スピリット」の周辺は岩石が3%ぐらいらしいから、ローバーの性能が遺憾なく発揮されるでしょう。

障害

ところで、火星現地の作業はどうなっているのでしょうか。

当初「太陽電池の出力がやや低い」という発表がありましたが、これはダストの影響でしょう。パワーの値としては観測には問題ないと言っています。

まず着陸直後に地球と直接交信のできるメーンアンテナを使えるようにしました。次に折りたたまれた車体の一部を展開、起立する作業を行いました。ところがこれが大変なのです。もともとローバーは、四面体のランダーの中にすっぽりと納まるようにコンパクトに折りたたんだ形で火星表面まで運ばれました(下図)。JPLの人はこれを「ロボット・オリガミ」と呼んでいますが、日本人のセンスからすると、「ヨガ」に近いですね。

ただしこのローバー起立の作業のためには、12個の火工品を作動させ、9つのモーターを動かし、6つのラッチをはめなければならないのです。彼らが「これまでの探査機のメカニズムで最も複雑なオペレーション」と言っているくらいです。でもまあここまではうまく行ったのですが、ローバーが火星表面の土の上に降り立つときに使うスロープを、しぼんだエアバッグの一部が覆っていて、ローバーの進路を邪魔していることが分かりました。そこでエアバッグを引っ張ったり、太陽電池板で押し下げたり、色々やってみたのですがうまくいきません。

そこで、ローバー全体を右に回転させて、別のスロープから地表へ下ろすことに決めました。このあたり、人間ならば「あ、ひっかかっているな」と言いながらちょっとエアバッグを持ち上げれば済むことなのですが、なかなかね。

ともかく今はなんとかローバーはすっかり展開し、直立し、6つの車輪の上にすっくと立ち上がっています。あと残っている作業は、ローバーの後ろについているケーブルを火薬で切断してローバーが自由に動けるようにし、次にローバーを約120度右に回転して、別のスロープを使って降りられる向き(上図の矢印)に向けることです。

JPLの人たちは、地上で同じ模型を作ってシミュレーションをやっています。「今のまま強引に回転すると、太陽電池の板がエアバッグと擦れるかもしれない」などと言っていますから、慎重の上にも慎重を期して作業をし、水曜日か木曜日には、「スピリット」がいよいよ火星表面の土を踏みしめることになります(下図:想像図)。ランダーはその時点で「火星の粗大ごみ」と化すわけです。

なお、もう一機のローバー「オポチュニティ」は、日本時間の1月25日に、「メリディアニ・テラ」または「メリーディアーニー・プラーヌム」という地形に着陸する予定です。これもまた楽しみにして待つことにしましょう。(2004/1/13)

宇宙航空研究開発機構 的川泰宣

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