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◆ ホーム >> 最新宇宙ニュース:2004年 >> 再使用ロケット実験機第3次離着陸実験

JAXA統合直後の10月14日から11月1日まで「能代多目的実験場」で再使用ロケット実験機の3回目の離着陸実験を行いました。今回はこれまでの機体を改修して、耐久性設計を施したエンジンインジェクタなどの新しい要素を組み込んだり、複合材極低温タンクに液体水素を入れて初めて飛ばすことや、繰り返し飛行のシステム構築のために故障を許容するシステムの検証など色々な新しい試みを載せて、繰り返しの飛行運用をすることが目的です。中でも複合材液体水素タンクはこれまでに何度も予想外の漏れや不具合に見舞われ、飛行に耐える状態にするまでに手こずりましたが、今回の実験では漏れなしの完璧な運用ができました。実験は静的な飛行から動的な飛行へと順次進め、いずれも計画通りに行われました。この結果、繰り返し飛行の実験環境を利用しながら新技術の実証や再使用のシステム設計および運用技術の勉強という所期の目的を達し、次のステップで目標とする高度100km以上の弾道飛行を目指す機体の設計のための基礎データの蓄積が図られました。


この実験は完全再使用という将来の宇宙輸送の革新のための基礎実験です。ロケットを何回でも繰り返し使えるようにして宇宙へものを運ぶコストを桁違いに下げ、新しい利用の需要を喚起することが目的です。「少しでも未来に近づいた」のか「ただ危ないことをやっているだけ」なのかの判断はこれを読まれた方に任せます。我々はこのような小規模の実験でも経験することは多いと知ってさらに前に進みたいと思います。長い道のりのゴールにあるのは「誰でも行ける宇宙旅行」とか、「太陽発電衛星の建設」とか今の宇宙の利用とは全くスケールの違うものです。勿論この実験の他にもやるべきことはいっぱいあります。この道のりを加速して世の中を前に進めることが我々の目指すところです。より一層のご批判とご支援をお願いします。

以下は実験の雰囲気をお伝えするために書いたものです。新しいことをやると予想外のことが色々起きます。かなり脚色されていますのでご注意を。実際の実験はもっと上品にやっていますので・・・

「コントローラスタートします。よーい、はい65、64・・・」
10月31日11時10分、再使用ロケット離着陸実験、天気で遅れて3回目最後のフライト。
「エンジン予冷OK」
「バルブ操作搭載側へ」
「タンク調圧正常」
「水素検知器ゼロ」
「SJOK」
「GPS正常」
・・・20、19・・・
「推力制御弁OK」
・・・8、7、6・・・
「はい点火器OK」
「エンジン点火正常!」
・・・2、1・・・
「エンジン停止!」
「なに!?」
・・・離陸1秒前でエンジン停止・・・

「着コネはずした後です!」
「内部電池は?」
「20分!」
「エンジンは?」
「搭載計算機側から止めたようです」
「ちょっと待て、まず安全にだ。各班異常無いですね」
「機体周り異常なしの模様」
「水素検知器ゼロ」
「計測も正常です」
「エンジンはエマストモードで正常に停止、搭載側でパージ中」
「OK、まずタンク減圧しましょう」
「コマンド打て」
・・・液水,液酸タンク減圧・・・
「航法系異常検知の信号で止めたみたいです」
「太陽フレアでGPSアウトなんてのじゃないよな。もっと調べろ」
「エンジン班2名外部コネクタとカプラ接続に行きます」
・・・地上操作ケーブル機体に接続。エンジンバルブ操作権搭載から地上へ。この辺りは着陸後の操作と同じで手慣れている・・・

「テレメデータではこれ以上分かりません。機体に行って内部データをダウンロードしないと」
「ちょっと待て、まだ水素酸素入っとる」
「エンジン班、水素は?」
「後2回分」
「酸素は?」
「これで終わり、今注文できるか電話してます」
「ヘリウムは?」
「これで抜いたらアウト、今頼むと東京から4〜5日」
「よし、水素取り敢えず排液しましょ」
「タンク加圧、排液弁開」
・・・
「酸素注文しました。昼には入ります」
「それでは酸素も抜けますね」
・・・水素酸素残液処理終了・・・
「よし、これで内部データおろしに行って良し」
「搭載計算機班2名行きます」
「エンジン班、もう1回やるとして再開は?」
「マイナス1時間からでいいでしょ。タンク冷えてるし」
「OK、搭載計算機班、1時間やるから原因調べてくれ」
・・・
「えーっと高圧ガスの届けはどうなってたっけ?」
「今日、月末で切れます」
「そーか、あとは・・・」
「管制班モチハラ新婚旅行、あした朝10時半新横浜」
「明日はなしか。くっそー、今日まで引っ張ったのに・・・」

・・・既に当初の実験終了日を4日ほど過ぎている。この数日の相模原との電話・・・
「天気で延期を余儀なくされ、兵糧が尽きかけています。実験延長していいですか?」
「統合後はプログラム単位でお金は責任を持ってやって下さい」
「じゃあ残りを切り上げて帰りますけどいいですか?」
「・・・」
「続けてやってもいいんですか?」
「・・・」
「昔のえらい先生は『いったん実験に行ったら何があっても終わるまで帰ってくるな。金の心配はせんでよろしい。現場は実験主任に任せる』と言ってくれたよな」
・・・

「分かりました。エンジン着火の衝撃で加速度が制限を越えて止めた様です」
「GPSじゃないんだな。何で衝撃大きいか?」
「エアロシェルから廻ったか?」
「ケツの目張りか?」
・・・環境計測のために機体底面の止め方を色々試して今回がっちり固定・・・
「構造班、目張り全部はずせますか。この前と同じにしたいんだけど」
「ええーっ、昨日残業3時間もかけてやったのに」
・・・
「この加速度制限をアマくして飛ばしてたらどうなった?このデータでシミュレーションできるか」
「やってみます」
「時間は?」
「うーん30分」
・・・
「えーと、これだと2時半か。GPSは?」
「2時半ごろは衛星切り替わりでダメです。2時50分より後」
「エンジン班は?」
「今メシ食ってます」
「2時50分離陸で準備できますか?」
「はいよ。エンジン点検済み」
・・・
「せんせい!ちょっと困ります。HQと報道には2時半までで通知してあります」
「おいモチハラ、そのメガネのにいちゃん、口にガムテープ貼ってその裏にしばっとけ」
・・・

「シミュレーション終わりました。この加速度ピークでは航法演算には影響ありません」
「ホントだな」
「あー、はい」
「間違ってないな絶対に」
「いーうー」
「もう忘れてることないか?」
「えー・・」
「さてと・・エンジン班いいですね。よーしもう1回行きますか」
「おー!」
「えーと搭載書き換えて、ここから再開で、これとこれはスキップで2時50分で大丈夫だな。あっ内部電池は?」
「もう交換しました」
「いつも足引っ張るのに早いな・・・ホイ管制、ここからスタート。各班状況聞いてくれ。これだと明日新横浜間に合うよな」・・・

「実験班にお知らせします。スケジュールを再開します」
・・・再度水素酸素充填、準備完了、コントローラスタート、エンジン点火、離陸上昇、実験場を見下ろして着陸、全部正常・・・
「よーしOK、これで生きて帰れる。高度は?」
「えーと42m」
「なに?ちょっと低いか?」
「イヤーはい。あのー、JAXAマークが重くて上がらなかったみたいです!」(2004/2/17)

宇宙航空研究開発機構 稲谷芳文

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