宇宙のポータルサイト UNIVERSE

最新宇宙ニュース

◆ ホーム >> 最新宇宙ニュース:2004年 >> まだまだ広がる?われわれの太陽系−最遠天体 2003 VB12 の発見−

エッジワース・カイパー・ベルト。あまりなじみがない名前かもしれません。エッジワースも、カイパーも20世紀中旬に活躍した天文学者の名前です。彼らは、われわれの太陽系は冥王星で終わりなのではなく、その外側に氷でできた微小天体が無数にあるのではないか、と考えていました。 しかし、長い間その存在は確かめようがありませんでした。ひとつひとつの天体が小さく、暗かったために見ることができなかったのです。ですが、その時はやってきました。1992年、ハワイ大学のジューイットとルーがマウナケアにある口径2.2m望遠鏡で、最初のエッジワース・カイパー・ベルト天体を発見したのです。電子の目CCDによる快挙でした。

考えてみれば、われわれの太陽系は、宇宙を見る「目」が良くなるたびにどんどん広がってきたといえるでしょう。肉眼でしか見えなかった世界では、土星が太陽系の果ての天体でした。ところが天体望遠鏡の発明によって、より暗い天王星がハーシェルによって発見されました。太陽系は一挙に2倍に広がったのです。天体望遠鏡の性能はどんどんよくなり、さらに外側の海王星の発見につながりました。また、写真技術の発明によって、より暗い天体の光を写真上に残せるようになり、1930年の冥王星の発見につながりました。そして20世紀後半には、電子の目であるCCDが天文学に活用されるようになりました。写真に比べてざっと100倍も感度がよい宇宙を見る新しい”目”です。このCCDを用いて、1992年以降、冥王星のあたりにあるエッジワース・カイパー・ベルト天体が続々と見つかり、すでにその発見数は800個を超えています。

さて、このエッジワース・カイパー・ベルトを調べていくと、いろいろと不思議なことがわかってきました。冥王星と同じような軌道を持つものがたくさんあったのです。中には直径が1,000kmもあるような天体も見つかってきました。どうやら、冥王星はエッジワース・カイパー・ベルトの天体の一つであることがはっきりしてきました。また、それらの軌道をよく調べると、50天文単位(1天文単位は地球と太陽との平均距離で1億5千万キロメートル)を境にして、その外側にはほとんど天体が見つかりませんでした。もちろん、軌道が大きくて、軌道の外側が50天文単位を大きく超えるような天体はいくつも見つかっています。しかし、そのような天体でも近日点(軌道上で太陽に最も近い点)は必ず50天文単位よりも内側にありました。つまり、起源は50天文単位以内にあり、衝突や接近遭遇によって、こういった天体ができた、と思われたのです。大きな楕円軌道ではあるのですが、もともとベルト付近にあった天体が、たとえば海王星の影響で跳ね飛ばされて外側へ膨らんだ軌道をもつようになったのでしょう。

とどのつまり、エッジワース・カイパー・ベルトが太陽系の最外縁であり、その端は50天文単位だ、というのが、ひとつの”常識”になりつつあったのです。

しかしながら、このような単純な”思いこみ”は、今回の天体の発見で、あっさりと打ち砕かれてしまいました。それは昨年11月にアメリカ・パロマー山天文台の口径1.2メートル望遠鏡で発見された 2003 VB12 という仮符号を持つ天体です。その天体を詳しく調べたところ、近日点はなんと76天文単位、遠日点が約1,000天文単位、周期は1万年という途方もなく大きな軌道であることがわかったのです。太陽系の最外縁と考えていた50天文単位をあっさりと超えてしまったわけです。この天体の大きさも特筆すべきものでした。正確な値はまだ求められていませんが、推定直径は1,000〜1,600キロメートルほどです。これまで発見されているエッジワース・カイパー・ベルト天体の中でも、冥王星の次に大きな天体であると考えられます。近日点がこれほど遠く、なおかつこれだけ大きな天体がいったいどのように形成されたのか、その起源は簡単には説明できそうにありません。エッジワース・カイパー・ベルトの天体なのかどうかについても意見が分かれているところです。長周期彗星の故郷とされるオールトの雲の天体かというと、そうではありません。オールトの雲は遠日点が数万天文単位とさらに遠いからです。また、第十惑星となるのでは、と期待される向きもありますが、この天体が惑星と呼ばれることはありません。一般に、太陽系の惑星は、その軌道空間を重力的に占有するような天体ですから、今後、他にも同様の天体の発見が期待され、なおかつ地球の数百分の一の質量しかない天体を惑星と呼ぶことはないでしょう。なお、発見者のグループでは、この天体にイヌイットの神話に登場する海の神の名前である、セドナ(Sedna)を提案しています。

今回のセドナの発見は、太陽系に新しい広がりをもたらし、さらにその先へと期待をつなぐことになりました。太陽系が、21世紀もまだまだ外側へ拡がりそうな気配になってきたわけです。4月には、このあたりを詳しく解説した「太陽系の果てを探る 〜第十惑星は存在するのか〜」(渡部潤一、布施哲治著)という本を東京大学出版会からだしますので、ぜひご覧下さい。(2004/3/24)

国立天文台 渡部潤一

Copyright