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◆ ホーム >> 最新宇宙ニュース:2005年 >> ヨーロッパ、いよいよ月へ 〜スマート1、世界の月探査の先陣を切る〜

スマート1の打ち上げ

スマート1の打ち上げ
(Copyright: ESA)

火星探査機マーズ・エクスプレスと、この前土星の衛星タイタンに着陸したホイヘンス突入機…この2つの共通点は何でしょうか? そう、2つともヨーロッパが開発した惑星探査機です。

ここのところ、月・惑星探査の世界ではヨーロッパが元気です。アメリカ、ロシアの独占状態に、日本と共に新しいプレイヤーとして参入したヨーロッパ。そして、ヨーロッパの3番目の行き先は、月。

2003年9月27日、ヨーロッパのロケットであるアリアン5で、「スマート1」という探査機が打ち上げられました。1年半を経た2004年11月16日に月を周回する軌道に入り、この2月末からは、いよいよ月を観測する軌道に入ろうとしています。


スマート…と聞くと、小さくてきびきび動くものを想像する方もいらっしゃるのではないでしょうか。この「スマート1」も、小柄なのです。大きさは1メートル四方、重さはわずか370キログラムで、月に行った探査機としてはもっとも小さい部類に入ります。この小型のボディに、3種類の科学観測機器が詰め込まれています。カメラやスペクトロメータなど、それでも月の表面を調べるには充分な機器といえます。

イオンエンジンを噴射して月に近づくスマート1の想像図

イオンエンジンを噴射して月に近づく
スマート1の想像図(Copyright: ESA)

スマート1を英語で書くとSMART-1になります。このSMARTは実は略称で、フルネームで書くと Small Missions for Advanced Research Technology になります。ちょっと無理やりつけたような気もしないではありませんが、これを訳すと「先進研究技術のための小型ミッション」となります。この「技術」というところが、実はスマート1のポイントなのです。

月探査を念頭においているとはいえ、スマート1の目的は、将来の月・惑星探査に必要となる技術を確かめることにあります。ちょうど今日本が小惑星に向けて飛ばしている探査機「はやぶさ」が、工学探査機ということと同じような意味をもちます。さらに、スマート1が搭載しているのが「電気推進」(イオンエンジン)というところまで、「はやぶさ」と共通しています。

電気推進とは、電気の力を使って、イオン状態の燃料(キセノンイオン)を加速させて進むという推進方式です。私たちがいつもロケットの打ち上げで見慣れているのは、水素と酸素、あるいはケロシン(灯油)と酸素などといった燃料を燃やして進む「化学推進」です。これに比べ、電気推進は、加速量そのものとしては弱いものの、長い時間加速を続けることによって、最終的には非常に大きな加速度を得るというものです。一言で言えば効率のいいエンジンということになります。
時間がかかっても目的地に効率的に到着することが、将来の惑星探査には求められています。そのためには電気推進はどうしても押さえておかなければいけない技術なのです。現に、スマート1は、月に到着するまでにたった59キログラムの燃料しか使いませんでした。このことからも、この推進方式の効率の良さがわかります。もっとも、到着までに1年2ヶ月を必要としましたが…。

月のムーシュ・クレーターの写真

月のムーシュ・クレーターの写真
(Copyright: ESA/Space-X,
Space Exploration Institute)

既にテスト観測をはじめているスマート1は、何枚かテスト写真を送って来ました。そのうちの1枚がこの写真です。

11年前(1994年)にアメリカの探査機クレメンタインが月の写真を撮影しましたが、一目みてやはり、10年間の技術の進歩を感じます。また、太陽の高さが低いところで撮影したため、クレーターの縁から延びる影が際だっていて、地形がよく目立つ写真となっています。太陽の高さがわかっていれば、この影の長さから、クレーターの縁をはじめとした、地形の高さなどを測ることもできます。


ピタゴラス・クレーター

ピタゴラス・クレーター
(Copyright: ESA/Space-X,
Space Exploration Institute)

もう1枚、こちらは、北緯60度付近にあるピタゴラス・クレーター(直径120キロ)の映像です。やはり太陽の高さが低いところで撮影したこともあって、クレーターの中央丘(クレータの真ん中にある山)が長い影を落としています。この影の様子がくっきりみえるというのは、科学者にとってはありがたいことです。

スマート1は、2月下旬から本格的な月観測に入る予定です。この探査での大きな目標は、月の南半球にある、サウスポール・エイトケン盆地(南極−エイトケン盆地)の探査です。この盆地は直径が2500キロメートルもある月最大、いや、太陽系でも最大の盆地で、恐らく衝突クレーターであることは間違いありません。しかし、いつ、どのようにしてできたのかはまだよくわかっていないのです。もちろん月の歴史にこのクレーターが大きく関係していることは、月科学者は誰しも認めるところでしょう。 このクレーターを探査するために、スマート1は南極付近では高度300キロと月に近づく変則的な軌道をとります。これにより、サウスポール・エイトケン盆地のなぞを明らかにしようとしています。

いま、月探査はにわかに世界各国で競争の時代を迎えています。現在すでに、ヨーロッパ以外にも日本、アメリカ、中国、インドが探査機を計画しています。その先陣を切ったスマート1は、世界の月探査大競争時代の幕をふたたび開ける役割を担っています。そのカメラが何を見るのか、スペクトロメータが何を捉えるのか。いよいよ私たちの目が、月から離せないときがやってきました。(2005/2/22)

宇宙航空研究開発機構 寺薗淳也

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