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ディープ・インパクトという言葉を聞いたことはあるでしょうか? 映画のタイトル? そう思った人もいるかもしれませんね。その通り。実は、このディープ・インパクト探査は計画段階から、ハリウッド映画「ディープ・インパクト」を意識していました。映画の方は、地球に天体が衝突してくるというお話でしたが、この探査計画では逆に、こちらから天体、それも彗星に衝突機を衝突させようというものです。

一般に惑星探査では、興味のある惑星や天体に探査機を接近させたり、軟着陸させたりして調べることが多いものです。彗星探査にしても、1986年に回帰したハレー彗星への探査では、日本の「さきがけ」、「すいせい」、ソ連の「ベガ1号」「ベガ2号」、ヨーロッパの「ジオット」などが次々と接近し、その彗星の本体である核の素顔を明らかにしました。2001年には、アメリカの探査機ディープスペース1号機が、ボレリー彗星に、2004年1月には、おなじくアメリカのスター・ダスト探査機が、ウィルド第一彗星に、それぞれ接近して、鮮明な核の画像を撮影しました。しかし、これらの探査機はすべて彗星の核のそばを通り過ぎるだけで終わってしまっていました。

このディープ・インパクト探査機は、彗星核に近づくだけでなく、インパクター(衝突機)を分離し、核に衝突させて、その様子を観測するというものです。その意味では、彗星探査だけでなく、これまでの惑星探査の中でも、いままでに例のない極めてとてもユニークな計画です。

彗星というのは、とても風変わりな天体です。私たちが住んでいる地球や他の惑星は、太陽のまわりをほぼまん丸な円形の軌道を描いてまわっています。歪んだ軌道を描いているのは、冥王星だけです。ところが、彗星は、逆に大部分が大きく歪んだ楕円軌道を描いています。そのため、太陽に極端に近づいたり、場合によっては惑星や太陽に衝突してしまったり、逆に途方もなく遠ざかったりします。
彗星本体の核の大きさは、大きくてもせいぜい数十kmしかないので、太陽から遠いところにある時には、暗くて見つける事ができません。ですから、どんな彗星がいつ頃太陽に近づくのか、を予測できる彗星というのは、周期の短い短周期彗星と呼ばれる一群、せいぜい150個ほどしかありません。残りの大部分は、太陽に近づいて明るくなるまで発見されないのです。
彗星が太陽に近づくと、太陽の熱を受けて、その姿が変化します。長い間太陽から遠い冷たい場所にあったため、彗星核にはまだ大量の氷が含まれています。核には80%ほどが水の氷、残りには二酸化炭素、一酸化炭素などの氷、それに砂粒のような塵や石ころが混ざっているといわれています。雪の少ないときにつくった「雪だるま」を想像してみましょう。ころがしているうちに、地上の土や砂がついて黒く汚れてしまいますね。彗星はこのような「汚れた雪だるま」の巨大なものと考えるとよいでしょう。雪だるまが太陽に近づくと、その熱で表面が少しずつ融けていきます。すると、まわりは真空ですから、水は液体に成らずにガスとなって蒸発してしまいます。このガスが彗星本体のまわりにぼやっとした薄い大気(コマ)となります。コマは電気を帯びにくい中性のガスです。また、ガスの中の一酸化炭素は、電気を帯びやすい性質があります。電気を帯びたものをイオンと呼びますが、イオンになると太陽から電気的な力を及ぼす風、いわゆる太陽風によって、どんどん後方へ吹き流されます。これが太陽と反対側にすーっと伸びた細い尾、「イオンの尾(別名プラズマの尾)」となります。また、ガスの蒸発と一緒に彗星から吹き飛ばされた砂粒や塵は、太陽からの光の圧力(放射圧)を受け、やはり反太陽方向へたなびく「塵の尾(別名ダストの尾)」を形作ります。明るい彗星では、本体からのガスや塵の蒸発・放出量が多いため、尾も明るく、長く、幅広く見えます。彗星を昔から「ほうき星」と呼ぶのは、この尾がほうきのよう見えるからです。
このように彗星はもともと太陽系誕生時に形成されたままの物質を保っていると考えられます。その成分を調べることは、太陽系ができたときにどんな物質があったのか、を探ることができるわけです。彗星は太陽系誕生時の化石なのですね。
しかし、古い彗星は何度も太陽の熱を浴びて、その表面は融けています。これまでの探査でも、彗星の核の表面のほとんどは、蒸発しない物質でできた殻に覆われていることが明らかにされています。ハレー彗星の核の表面も、反射率がわずか4%と、まるで炭のように真っ黒で、ガスが蒸発してきているのは表面のごく一部だけでした。このように”焼けただれた”表面は、彗星のもともとの物質組成を代表しているわけではありません。化石そのものの物質組成を調べるには、この殻の下を調べなくてはならないのです。そこでディープ・インパクト探査機が考え出されたわけです。なにかをぶつけてその表面の殻を破り、その様子を見ることができないか、という発想です。

ターゲットに選ばれたのは周期5.5年のテンペル第一彗星です。周期が短いので、太陽に何度もあぶられていますから、厚い殻に覆われているのは間違い有りません。この彗星に、重さ370kgのインパクターを衝突させ、表面の殻を割ろうというわけです。衝突させるスピードは、秒速10キロなので、重さがたった370kgとはいえ、TNT火薬換算で5トン分の衝撃力を持つほどです。この衝突によって、彗星核表面には直径100mほどのクレーターができ、同時に衝突発光を含めて様々な現象が起こると予想されています。
衝突の瞬間は、親探査機がもつ二つのカメラと、および赤外線分光計によって観測します。親探査機は衝突の瞬間を観測した後、彗星核から約500kmのところを通過し、その後は振り返って観測することになります。当然、衝突地点は見えなくなってしまいます。地球からは、衝突の瞬間の現象は遠くてなかなか見ることができないと思われています。

クレーターができると、やがて内部のフレッシュな氷が露出し、太陽の光にあぶられて、急激に蒸発してくることが予想されています。これこそ、殻の下に隠されたもともとの彗星の組成と考えられます。天文学者は、衝突後に蒸発してくるガスやチリを地上の望遠鏡を総動員して調べようとしているのです。衝突機は粉々になってしまいますが、その際に彗星本体の成分と混じらないよう、衝突機の成分は50%が銅でできています。

いよいよ、その衝突の時である7月4日が迫ってきました。衝突時刻は14時52分の予定です。日本では昼になるので、何も見ることはできません。しかし、クレーターができた後、内部のフレッシュな氷が露出して、激しく蒸発を起こすとすると、その影響が現れてくるのは数時間後となるでしょう。そうすると日本は彗星の最初の変化を捉えるのには最適な場所になります。彗星活動が大きく変化し、明るくなったり、あるいは尾が発達したりするとすれば、地上の望遠鏡でもその変化がわかるかもしれません。一方、表面の殻が厚く、たとえクレーターができても、フレッシュな氷は露出せず、何も起きないという可能性も指摘されています。なにしろ人類にとって始めての壮大な実験ですから、何が起きるか、全く予想がつかないというのが本音です。でも、その壮大な実験結果は、皆さんの目で直接確かめることができます。7月4日前後はテレビやラジオ、新聞、あるいはインターネットなどで報じられるディープ・インパクトの結果に注目しましょう。(2005/6/30)

自然科学研究機構国立天文台 渡部潤一

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