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日本の小惑星探査機「はやぶさ」が、ついにクライマックスの時を迎えています。はるか3億キロメートルの彼方にあって、わずか500mの大きさの天体表面の目の覚めるような写真を送ってきてくれている「はやぶさ」が、今月「人生」の正念場の晴れ舞台に立ちます。

すでに11月1日に、高い解像度の画像とその解析結果が発表されました。これまでの科学観測だけからも、小惑星と太陽系の科学に新しい知見を加えたことは明白(http://www.isas.jaxa.jp/)ですが、「はやぶさ」はこれから、さらに貪欲なサンプル採取に挑みます。

1 これまでの観測成果

【二つの異なる地質】
図1、図2を見てください。小惑星のこんなに解像度の高い画像は初めてですね。見てすぐ気がつくことは、小天体なのにまるで異なる様子の地域に分かれていることです。滑らかに見えるところはレゴリスで覆われている地域ですね。そうでないところは岩だらけで、クレーターが少ないように見えます。レゴリスの多い地域はクレーターが特に少なく、年代が若いと思われます。一方、岩だらけの地域は年代が古く、宇宙塵などによる風化が進んでいると推定されます。ということは、小惑星探査の眼目である古い地形が、レゴリスに邪魔されないで惜しげもなくその姿を晒しているということです。これから続々と面白い解析結果が出てくるでしょう。

イトカワ
図1 イトカワ

イトカワ
図2 イトカワ

【自転軸】
「はやぶさ」科学チームが弾き出した推定密度は2.3です。意外と小さいですね。内部に空隙があると思われます。チームによれば、形状中心と質量中心はほぼ一致しているので、内部の質量分布には全体として大きな偏りはないのではないかということ。また自転のふらつきはほとんどなく、自転軸は最大慣性主軸にほぼ一致している、つまり長軸にほぼ垂直になっています。そしてその自転軸は黄道面にほぼ垂直です。

【大きな岩塊の群れ】
それにしても、何と奇妙な岩の塊の群れ(図3、図4)。その岩塊(ボールダー)の大きさから見て、これらは「イトカワ」にある最大のクレーターが生じたときですら、作ることができないと推定されます。ということは、これらのボールダーは、もっと大きかったもとの天体が、いったん衝突によって壊れ、その時にできた破砕物がまた表面に舞い戻ったような印象を与えます。とってつけたようなかたちでくっついているボールダーもありますね(図2)。

イトカワ  イトカワ
図3 イトカワ                        図4 イトカワ

【形状など】
さて、チームが算定した大きさは、540m×270m×210mで、予想よりは10%くらい小さかったようです。それが約12.1時間の周期で地球の自転とは逆に回っています。
その他、形状や重力分布の詳細なモデルも発表されています。これから続々と発表されるはずの論文にご注目あれ。それらの論文の一つ一つが、太陽系の起源と進化の研究に大きな貢献をしていくことでしょう。

2 これから起きること

以前のこの欄では、姿勢制御用のリアクションホイール3基のうち1基が7月31日に故障したこと、目標とする小惑星「イトカワ」の手前約20kmのところに9月12日に静止したことなどをお報せしました。

その後、科学観測データは増えつつある一方で、残る2つのホイールのうちもう1つが10月1日に故障してしまい、現在は1基のホイールとヒドラジン・ガスジェットで姿勢を制御しているところです。障壁を乗り越えて、いよいよサンプルを収集するオペレーションを敢行する11月になりました。

【燃料の節約方法に目処がついた】
サンプル収集と地球帰還のカギを握るのは、姿勢維持に必要な燃料が足りるかどうかです。すでに「やはぶさ」チームでは、制御策に検討を加え、微小なジェットを精度よく管理して噴射する方法に成功し、少なくとも量的には帰還までに必要な燃料を確保することを確認しました。現在までに使った燃料は15kgで、あと50kgほど残っています。今後新たな機器の故障が発生しない限り、帰還までの運用に見通しを開いたと言えます。まずはここまで到達したチームの奮闘に拍手。

【まずリハーサル】
11月のクライマックスシーンは三つの舞台を持ちます(図5)。
まず11月4日。リハーサルのための降下。午前4時ごろ、ホームポジション(HP)から降下を開始した「はやぶさ」は、LIDARと航法カメラで3次元計測をしながら、自身の判断で動いていきます。この間、写真も撮るし他の機器も作動しています。12時30分ごろ、高度500mあたりで得られた画像を地球に送信し、地上局でGo/NoGoの判断をし、Goの場合は、13時30分ごろにホヴァリングをしながらターゲットマーカーとミネルヴァを放出、14時ごろを目処にイトカワ表面から30mくらいまで接近します。
リハーサルの眼目は、近距離レーザー高度計の較正です。4つの方向にレーザービームを放出することによって、自分がイトカワに対しどの方向を向いているかを判定するのです。この高度計は100m以内でないと使えないのです。ターゲットマーカーの一個目を放出して、イトカワを背景にして「はやぶさ」のフラッシュビームでどのようにストロボ撮影ができるか確認します。これは着陸のときに「はやぶさ」を着陸地点へ誘導していく灯台の役割を持っています。そしてもう一つ、小型ロボット探査機「ミネルヴァ」も表面に降下させます。このミニローバーは、イトカワの上をピョンピョン飛び跳びはねながら、表面の写真を撮ったり、温度を測ったりします。
そこからまた上へ舞い戻ります。上昇速度は毎秒50 cmくらいです。

着陸採取のシーケンス
図5 着陸採取のシーケンス

【着陸とサンプル採取】
そして人類史上初めての小惑星からのサンプル採取オペレーションが開始されます。まず11月12日。予定では、リハーサル絡見て1時間遅れぐらいでイベントが進行していきます。つまり降下開始が午前5時、Go/NoGoの判断が13時30分、30m上空でホヴァリングしながらのターゲットマーカー放出が14時30分です。次いでいよいよタッチダウンしてサンプルを採取するのが、15時ということになります。つづいて11月25日。設置予定時刻はやはり15時。第二回の着陸とサンプル採取です。
もう少し細かく言えば、ホームポジションから降下し、30m付近で新たに放出されるターゲットマーカーにフラッシュビームを浴びせながら横方向の速度をキャンセルした「はやぶさ」は、距離センサーによって高度と相対的な姿勢を検出して、表面に平行に移動します。そして15〜20mくらいでホバリングしてから自由落下という運びになります。イトカワ表面に接地している時間はわずか1秒です。その間にサンプル採取装置から弾丸が発射され、小惑星の表面に貫入します。その際、岩石のかけらやダストが舞い上がるでしょう。それらは重力のほとんどないイトカワ表面からサンプル採取装置の孔を通って、カプセルに自然に入っていきます。
現在着陸する予定になっている候補点は、第一回がA点(図6)、第二回がB点(図7)です。候補地が変わると、場合によっては着陸時刻が数時間ずれ込む可能性があります。このイトカワは12時間の周期で自転しているからです。

はやぶさ第一着陸候補点A
図6 はやぶさ第一着陸候補点A

「はやぶさ」第二着陸候補点B
図7 「はやぶさ」第二着陸候補点B

【画像の発表】
リハーサル、着陸ともに、イベントの成否だけは、20分〜30分後には情報が届くでしょうから、ISASのホームページにご注目ください。画像として早めに出てくるのは航法用カメラのものですが、それはターゲットマーカーがほとんど「点」として写っているようなものになる可能性があります。それぐらいのものならば2〜3時間おきに提供できるでしょう。鮮明な画像については、うまくいけば20時から21時までに開催する記者説明に間に合わせたいものですね。それが駄目でも、翌日には確実に発表できるでしょう。
「ミネルヴァ」が撮った画像については、11月5日(土)以降になるでしょうが、ISASのホームページに載せることにします。
可能であれば、リハーサルの際に、みなさんのターゲットマーカーが設置された状態での着陸点が撮影されると最高なのですが、こればかりはどうなることやら。
ともかくISASホームページを頻繁にご覧下さい。短いものでもできる限りたびたび更新をつづける予定です。

【みなさんの名前の行方と着陸地点の名前】
「はやぶさ」の打上げ前に、世界中のみなさんから名前を寄せていただきました。その149ヵ国から来た88万人の名前は、11月4日の接近リハーサルの時に放出するターゲットマーカーに刻んであります。着陸後は永遠にその表面にとどまるのです。
着陸・採取が成功したら、その地点の地名をみなさんにメール投票によって命名していただく予定です。世界初の小惑星のサンプル採取の地点の名前ですから、それにふさわしい栄誉ある名前を期待しています。JAXA、ISASのホームページを注目していてください。
さあ、世紀の瞬間をみんなで楽しみましょう。オペレーションをやっている人はそれどころではないですけどね。(2005/11/04)

宇宙航空研究開発機構 的川泰宣

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