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◆ ホーム >> 最新宇宙ニュース:2005年 >> なぞの天体・金星をさぐれ ビーナス・エクスプレス、そしてプラネットC

「金星は地球の双子星で…」などと始めると、早速「でも、すごく表面は熱いんでしょ」とすぐ答えが返ってくる(?)時代になりました。確かに、金星の表面は摂氏470度、しかも圧力は90気圧。地獄と呼ぶにふさわしい過酷な世界であることが明らかになったのは、1970年代のことです。 それまでは、金星は地球に割と似ているのではないかと思われていた時期もあります。確かに、大きさは地球とほぼ同じで、望遠鏡でみる限り穏やかな姿は、大気に覆われて、太陽に近いため地球よりはちょっと熱い…そんな天体を想像させました。しかし、惑星探査機の活躍により、そのような淡いイメージは木っ端微塵に吹き飛ばされたのです。

惑星探査の世界でも、1960年代から70年代にかけて、火星探査、金星探査はアメリカと旧ソ連が競争を繰り広げました。ところが面白いことに(というと不謹慎かも知れませんが)、金星探査には旧ソ連が強く、火星探査ではアメリカがリードしていました。火星と金星を比べると金星の方がはるかに過酷なのに、旧ソ連の「ベネラ」シリーズの探査機は、次々に金星に着陸しました。 はじめて金星の写真を撮影したのは、1975年に打ち上げられたベネラ9号でした。その地獄の世界から送られてきた写真は、ゴツゴツとした岩石に覆われた、地球の火山地帯のような写真でした。

ベネラ9号が撮影した金星の表面写真。岩がごつごつしているということは、比較的最近岩ができたことを示唆している。(Photo by NASA)

ベネラ9号が撮影した金星の表面写真。岩がごつごつしているということは、比較的最近岩ができたことを示唆している。
(Photo by NASA)

それにしても、この地獄を生み出しているものは何なのでしょうか。それは、金星大気の大部分を占める二酸化炭素です。 「温室効果」という言葉を、環境問題に絡んで聞いたことがある人も多いでしょう。二酸化炭素などのガスには、赤外線を吸収する効果があります。これが、天体から放射される赤外線を吸収して、まるで星をくるむ温室のような効果を発揮してしまうのです。金星はそのために、地球よりも水星よりも熱い天体になってしまったのです。


さて、ここまでなら「金星ってすごい星なんだね」で終わってしまうかも知れませんが、もう少し先を続けることにしましょう。この大量の二酸化炭素の大気は、そもそもどのようにしてできたのでしょうか?
いま考えられているのは、金星も地球も、やはりもとは似ていた、という説です。ところが、ただ1つの大きな違い---太陽との距離が、両者を分けたというのです。
地球は太陽から遠かったために、水が液体で存在できました。海の存在です。この海に二酸化炭素が溶かしこまれ、大気から除去されていったのです。そのため地球の大気は窒素が中心の「穏やかな」大気となり、やがて生命を生み出していきました。
金星は太陽に近かったために液体の水が存在せず、二酸化炭素はそのままで残りました。さらにそのための温室効果で天体全体が暑くなり、いまの姿になったというのです。

このことは、実は金星を本当に理解するためには、大気が重要だということを意味しています。ところが、金星の大気というのは、なぞが非常に多いのです。 まずは、金星の大気をめぐる高速な風の存在ですが、その前に金星の自転のお話をしておかなければなりません。金星の自転は、他の惑星に比べて非常に変わった特徴を持っています。1回自転するのに243日(地球はもちろん1日)もかかり、しかも地球などと反対方向に回るのです。
自転と風とはどういう関係があるでしょうか? 地球の大気の流れなどをみてみますと、大きな大気の流れ(偏西風など)は、地球の自転が重要な原動力になっていることが分かっています。
ところが、金星ではそのようなつながりでは理解できない現象があります。なんと、こんなにのろのろと自転する金星で、4日ほどで金星を一周する大気の流れが存在します。風速はなんと秒速100メートル、自転スピードの60倍にも達します。「スーパーローテーション」(大気超回転)と呼ばれるこの流れは、最初日常からの観測により判明したのですが、実際のところ、どのような仕組みで生み出されているのか、まだよく分かっていないのです。

金星の大気には、その他にもなぞめいた、あるいはまだよく分かっていないことがたくさんあります。たとえば、猛烈に熱い地面と大気とはどのような化学反応を及ぼしあっているのか? 大昔にあったはずの水はどこへ消えたのか? 大気に浮かぶ濃硫酸の雲の下はどのような温度になっているのか? 雷は起こるのか? 金星の大気の上層では、太陽風と大気とがどのような相互作用を及ぼしあっているのか? …

このような金星の大気にまつわるなぞの解明を目指して、探査機を打ち上げようという動きが続いています。まずはヨーロッパのビーナス・エクスプレス。 名前を聞いた時にピンときた方は、2003年に打ち上げられたおなじくヨーロッパの「マーズ・エクスプレス」を想像するでしょう。そう。この両者は兄弟といっていいほど似ています。もちろん、金星は火星に比べて太陽光が強いので、そのための措置は施してありますが、基本的には同じ目的で開発された探査装置を積んでいるのです。

ビーナス・エクスプレスの打ち上げ(Photo by ESA)

ビーナス・エクスプレスの打ち上げ
(Photo by ESA)

ビーナス・エクスプレスは、11月9日、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。

探査機は来年4月に金星を周回する軌道に入り、本格的な観測を開始します。探査機に搭載された7つの機器は、金星の大気や雲の様子だけではなく、地表の様子も撮影することができます。観測は金星の1年間(約486日)を予定しています。

そして、忘れてはならないのはわが日本の探査機、PLANET-C(プラネットC)です。2008年の打ち上げを目指して開発が進められている探査機は、ビーナス・エクスプレスと同様、大気や地表の様子を観測する測定器を搭載し、金星大気の様子や、金星上層大気の様子、地表の様子などを調べます。

金星を探査するプラネットC想像図(Photo by JAXA)

金星を探査するプラネットC想像図
(Photo by JAXA)

こういうと日本とヨーロッパで全く同じ探査機を打ち上げているようにみえますが、そうではありません。ビーナス・エクスプレスはどちらかというと大気の組成などの解明に重点を置いているのに対し、プラネットCは大気を力学的な観点から捉えようとしています。もちろん、両方の探査機を開発・運用する科学者のチームは国境を越えて緊密に連携し、金星のなぞに挑もうとしています。
火星には探査機がたくさん飛び、その姿が次第に明らかになってきていますが、分厚い大気に覆われた金星は、意外とまだまだ分かっていない惑星です。その惑星に、国際的な協力によって科学者たちの挑戦が続いていきます。(2005/12/26)

宇宙航空研究開発機構 寺薗淳也

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