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3月末に、衝撃的な写真を目にしました。2006年3月29日午前4時50分(CST)、高度230マイルを飛行中の国際宇宙ステーションに搭乗しているコマンダーのビル・マッカーサー、フライト・エンジニアのヴァレーリー・トカリョフ両飛行士が、皆既日食の真っ最中の「陰の」立役者であるお月さまが地球に落とす影を撮影したのです。本影の周りを半影がぼんやりと囲んでいる1億5000万キロの長さを持つ投影機の「影の」立役者は、翻って太陽です。その影の外側には、地中海に浮かぶキプロス島とトルコの海岸の一部が、南を上にして見えています。

皆既日食の最中に地表に映った月の影
<写真: 皆既日食の最中に地表に映った月の影>
(Photo: NASA)

一瞬の間に私の心に浮かんだのは、地上数百キロメートルを猛スピードで飛んでいる宇宙船と、その中で息を潜めて眼下の地球を眺めている宇宙飛行士の姿でした。そして地上を見つめているその飛行士の背後には、真っ黒の新月と明るい炎を吹き上げる太陽の姿が浮かんできます。この壮大なパノラマの大切な風景の一舞台に自らを置くことの痛快さは、実際に自分の想像力を使った人でなければ味わえません。

宇宙は、まことにそのような挑戦的な素材に満ち満ちています。

そういえば、最近アメリカでLPSC(月惑星科学会議)のシンポジウムが開催されて、「はやぶさ」が注目を集めました。昨年の秋に小惑星イトカワに接近・観測・着陸・離陸という離れ業を演じて話題をまいた、あの日本の探査機「はやぶさ」です。

忘れもしない、あの接近の際、太陽を背にして接近する「はやぶさ」の可愛らしい影が、イトカワ表面に投げられている様子が、「はやぶさ」搭載のカメラによって捉えられて感動を呼びましたね。

イトカワ表面に映じた「はやぶさ」の影
<写真: イトカワ表面に映じた「はやぶさ」の影>
(Photo: JAXA)

相模原の管制室で若い研究者が、「あ、これ《はやぶさ》の影じゃないか!」と叫んだとき、近くに居た「はやぶさ」チームの面々が一斉に駆け寄りました。「あ、本当だ!」「太陽電池パドルの形が分かるね!」などと口々に歓声をあげながら、みんなの心に浮かんでいたのは、「地球から約3億キロメートル離れている宇宙空間」という舞台装置だったのでしょう。

それぞれの頭脳の中には、はるかな宇宙空間において、時折地球との会話を交わすとはいえ、一人ぼっちでレインボーブリッジくらいの大きさの星に挑戦している小粒な探査機の果敢な姿が、くっきりと描かれていたに違いありません。こんなに気の遠くなるような距離を隔てたところで、自らの影を孤独に確認するなどという途方もない事件は、私たちを大変驚かせました。

面白いことに、中にはそんなことにハナから興味のない御仁もいるにはいました。「真後ろに太陽があって、真ん前にイトカワがあれば、影が映るのは当たり前だよね」とつぶやいてすましている「クールな感性」の人たちです。この辺はまさに千差万別で、それを見ながら「センサー万別」と「駄洒落ている」人間もいました。

そう言えば、数年前に、日本の火星探査機「のぞみ」が地球スウィングバイを敢行したとき、搭載のカメラが地球と月を一つのフレームに捉えたことがありました。太陽系空間に38万キロメートルを隔てて浮かんでいる天体のツーショットは、やはり私たちの想像力を強く刺激したものです。新聞各紙の一面に載ったカラー写真を目にした日本の各地の読者諸氏から、「あの写真の紙焼きが欲しい」の声が相次いで寄せられました。

「のぞみ」がとらえた地球と月
<写真: 「のぞみ」がとらえた地球と月>
(Photo: JAXA)

そしてそのときも、やはりいたのです。次のようにつぶやく人が──「月と地球がこの世に存在していることは大昔から分かりきっていることなのに……。こんな写真のどこが珍しいんだろうね」と。まあ、議論して決着する話ではありませんが、私はとりあえずそんな感性に生まれていなくて幸せと感じたことを憶えています。

研究所の私の部屋のすぐ外側に咲き誇っているソメイヨシノが、今年も散りつつあります。その前で立ち尽くしながら、私は思い描いていました。もし3億キロメートル離れた他の星から派遣された探査機が私たちを訪問して、この桜の花をカメラでとらえ故郷の星へ伝送しているという荒唐無稽なシーンを。

すると、大学3年生のときに永遠の別れをした母の顔がまぶたに登場してきました。あの母は桜が好きでした。ただし山桜が。「すぐに散ってしまうソメイヨシノは嫌い。あまりに悲しすぎるもの……」──小学校の頃から、毎年この季節になると、母の口癖のような言葉を聞くのが、私の甘酸っぱい楽しみになっていました。

春は人の心をくすぐる事件に溢れています。それが日本という国の大きな魅力でもあります。この国の人々が育んだ文化を世界の人に伝えたい。そうしたメッセンジャーを無数に育てたい──心はいつしか「宇宙教育」に向かう私でした。(2006/4/7)


宇宙航空研究開発機構 的川泰宣

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