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インドに新しい風──月探査機チャンドラヤーン1号打上げ成功!


インド初の月探査機チャンドラヤーン1号を搭載したPSLV-C11ロケットが、10月22日早朝(現地時間午前6時22分、日本時間9時52分)、ベンガル湾のスリハリコタ島にあるサティッシュ・ダワン宇宙センターから打ち上げられた。

第1段の切り離し、第2段への点火、高度116 kmでのフェアリング開頭、第2段の切り離し、第3段点火、第3段の切り離し、第4段点火を順調に乗り越え、発射の20分後、チャンドラヤーンを分離、探査機は一人旅に移った。

PSLV-C11は、PSLV(Polar Satellite Launch Vehicle:極軌道衛星打上げ用ロケット)の最新バージョンである。打上げ時重量は320トン、従来の9トン補助エンジンに対し、この機種では12トン補助エンジンを用いている。4段式で固体・液体の両方のエンジンを持つPSLVは、1993年にデビューし、今回で連続13回の成功を収めている。PSLVが今までに軌道上へ輸送した衛星は合計30機。そのうち14機がインド製、16機が海外のものである。


なお「チャンドラヤーン」は、サンスクリット語で「月の乗り物」を意味する。打上げ時の「チャンドラヤーン1号」の重さは1,380kg(一説では1304 kg、月に到達した時点では590kgになる予定で、比較的小さい探査機である。


現在チャンドラヤーン1号は、近地点255km、遠地点22,860km、傾斜角17.9度の長楕円の地球周回軌道上にある。この後、何回かの軌道修正を行い、月への遷移軌道へと移る。月周辺に到着すると、搭載されている液体アポジーエンジンを噴射することで減速し、月を周回する楕円軌道に投入される。ここまでが2週間ぐらいか(つまり11月9日あたり)。その後、少しずつ遠月点高度を下げていき、最終的には高度100kmの円軌道へ。
それからカメラや他の科学機器の電源をオンにし、テスト後、本格的な観測期間へと移行する。

打上げを目前に控え、ISROのマダヴァン・ナイア長官はインドの民間テレビNDTVのインタビューに答えて、「月探査機を月に送った時にインドの国旗を置いてくることも考えている。山や北極など新たな場所に行ったとき、自分が行ったことを示す国旗を置きたくなるのと同じだ。もしそうなれば、インドはアメリカ、ロシア、日本に次ぐ4番目の国になる」と語っていた。

さてチャンドラヤーンは、月周回軌道投入後の早い時期に、月面衝突プローブMIP(Moon Impactor Probe)を分離・降下させる。月の表面の分析、近距離からの写真撮影などを遂行するものである。その後チャンドラヤーンの母船は、搭載した11個のリモートセンシング機器を使い、2年間にわたって科学観測を続行する。
可視光、近赤外、マイクロ波及びX線領域での高解像度の探査を実施し、月表面の3次元地形図の作成や化学組成、鉱物組成の全球にわたるマッピングを行う。11個の科学機器のうち3つはESA(ヨーロッパ宇宙機関)を通じて供給されたもの(イギリス、ドイツ、スウェーデン)である。

インドとヨーロッパの協力の歴史は古い。1978年にESAとISRO(インド宇宙研究機関)との間に初の協定が結ばれ、すでに1981年にはヨーロッパのアリアン1型ロケットがインドの最初の静止衛星アップルを打ち上げた。アリアンはこれまでに13個のインドのINSAT衛星を軌道に送っている。ESAがインド初の月探査衛星チャンドラヤーン1に機器を提供することに合意したのが2005年3月。その3ヶ月後の同年6月27日、ESAとISROの両長官(ジャック・ドーダンとマダヴァン・ナイア)が、チャンドラヤーン1にヨーロッパの観測機器を搭載することを含めた覚え書きに調印した。
この度の打上げによって、地球周回軌道を越える宇宙科学での協力が開始され、インドとヨーロッパの関係が新たな時代に入ったものと考えられる。

チャンドラヤーン1号に搭載されているヨーロッパの機器は3種類ある。最初の二つはいずれも先の月探査機SMART-1から派生したもので、一つはSIR(近赤外線分光器)、もう一つはC1XS(撮像型X線分光器)である。3つ目は月面‐太陽風の相互作用を調べるSARA(サブキロ電子ボルト原子反射分析装置)である。
(1)C1XS(Chandrayaan-1 Imaging X-Ray Spectrometer):イギリスのラザフォード・アプルトン研究所がバンガロアのインド衛星センターとの協力で製作したもので、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、鉄、チタンなどの存在量を、X線を使って月面全面にわたって調査する。
(2)SIR-2(Smart Near-Infrared Spectrometer):ドイツのマックス・プランク研究所の太陽系科学研究所が製作した。月の鉱物資源、月面地形の生成プロセス、月の地殻の層構成などを研究する。
(3)SARA(Sub-kiloelectronvolt Atom Reflecting Analyser):スウェーデンの宇宙物理学研究所がインド南東部ケララ州ティルヴァナンタプラムにあるヴィクラム・サラバイ宇宙センターの宇宙物理学研究室と協力して作り上げたものである。月には大気がないので、太陽風が月面に直接吹き付ける。SARAは、月面がこの太陽風とどのように相互作用するかを探り、併せて月面の磁気異常を研究する。

ヨーロッパはこの他にも、高エネルギーX線スペクトロメータ(HEX:High Energy X-ray Spectrometer)のハードウェアについても開発支援をしており、また飛翔計画の作成やデータ処理・解析についてもかなりサポートしたらしい。こうした実績をもとに、11個の科学機器から得られるデータを適切に共有できるよう話し合われている模様である。

今回の探査が成功した後、インドはさらに有人飛行の計画を進める予定である。ナイア長官は「2015年までに有人宇宙飛行を打ち上げようとISROは計画している。早く有人宇宙飛行の計画も早めに立てたい。人が行くことは重要なことだと思っている。その費用は約1,000億ルピー(約2,075億円)になると考えている」と語っている。1985年に日本の宇宙科学研究所がハレー彗星探査機「さきがけ」を送った時のことを思い出す。日本では、宇宙活動の技術的評価を有人飛行に発展させる政策的な展開は一切見られなかったが、インドでは「宇宙活動の新しい時代」が幕開けした。打上げ成功後の管制室や記者会見での関係者の歓喜の表情が、その快挙のレベルを物語っている。
心から「おめでとう」を申し上げたい。

【参考資料】

探査機の概要を表にすれば、以下のようになる。

大きさ 1.5×1.5×1.5m
重量 打ち上げ時…1,304kg
月到着時…590kg
搭載装置 地形マッピングステレオカメラ (TMC)
高解像度スペクトルカメラ (HySI)
レーザ高度計 (LLRI)
高エネルギーX線スペクトロメータ (HEX)
月面衝突装置 (HIP)
撮像型X線スペクトロメータ (C1XS)
近赤外線スペクトロメータ (SIR-2)
低キロ電子ボルト原子反射分析装置 (SARA)
放射線モニター (RADOM)
小型合成開口レーダ (MiniSAR)
月面鉱物マッピング装置 (M3)
探査期間 約2年
主要目的 可視光、近赤外、X線領域での月面マッピング
月面全面の3次元マッピング
月面全面の鉱物分布の解明

科学観測機器のそれぞれをもう少し詳しく紹介しておこう。

1 地形マッピングステレオカメラ (TMC:Terrain Mapping stereo Camera)
このカメラは、インドが独自に開発したもので、最大解像度5 mの高性能を誇っている。

2 高解像度スペクトルカメラ (HySI:Hyper Spectral Imaging Camera)
400〜950ナノメートルの波長でスペクトルを取得する。最大で空間解像度80 mの画像を取得する予定である。

3 レーザ高度計 (LLRI:Lunar Laser Ranging Instrument)
月面の高さ(でこぼこ)を測定する。高さ方向の解像度が10 mの性能を持っている。

4 高エネルギーX線スペクトロメータ (HEX:High Energy X-ray spectrometer)
30〜250 keV(キロ電子ボルト)の領域のX線データを取得し、月面の鉱物、元素のデータを取得する(空間解像度40 km)。

5 月面衝突装置 (MIP:Moon Impactor Probe)
チャンドラヤーン探査機本体に搭載されて、月面へ衝突する。

6 X線スペクトロメータ (C1XS:Chandrayaan-1 Imaging X-ray Spectrometer)
先述。インド宇宙機関で搭載のため改造が行われた。

7 近赤外線スペクトロメータ (SIR-2:Near Infra Red spectrometer)
先述。

8 低キロ電子ボルト原子反射解析装置 (SARA:Sub keV Atom Reflecting Analyser)
同じくヨーロッパとの協力により、スウェーデンの宇宙物理学研究所とインドの宇宙物理学研究所とが共同開発した。

9 放射線モニター (RADOM:Radiation Dose Monitor Experiment)
ブルガリア科学アカデミーで開発された。

10 小型合成開口レーダ (MiniSAR:Miniature Synthetic Aperture Radar)
NASAとの協力により、ジョンズホプキンス大学応用物理学研究所とアメリカ海軍航空兵器センターが開発した。

11 月面鉱物マッピング装置 (M3:Moon Mineralogy Mapper)
アメリカのブラウン大学とジェット推進研究所(JPL)により開発された。鉱物資源の分布地図が作成される予定で、将来の有人月面探査に活用されることになっている。


宇宙航空研究開発機構 技術参与・名誉教授
NPO法人 子ども・宇宙・未来の会 会長    的川泰宣

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